カフカ『巣穴』43
フランツ・カフカの短編小説『巣穴』を翻訳していくtheLetterの第43回です。
頭木弘樹
2026.07.23
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●カフカの「立て弁」
落語に「立て弁」というのがある。
立て板に水のように、すらすらと流れるようにセリフや文句を言い立てるのだ。
「立て弁」で語るべき箇所は、ゆっくり、切れ切れに語ったのでは、同じ内容でも、ちがってしまう。一気呵成であることが大切なのだ。
カフカの文章にも、そういう箇所がある。
第8回で、「カフカの一文は長いが、そのまま長く訳すことは難しいので、短い文章に区切って訳す。長いまま訳せるのは谷崎潤一郎か筒井康隆くらいだろう」と書いた。
ただ、そのとき、「必要な箇所では挑戦してみるつもり」とも書いた。
今回がそれだ。
今回の箇所は、くり返しが多用され、主人公の気持ちが高ぶっている。こういうところは、ひとつながりの文のままにしなければならない。ひとつの流れにしなければならない。細かく区切るとだいなしになってしまう。
というわけで、かなり長い段落がまるごと一文になっている。
果たして、ちゃんと一気に読んでいただけるかどうか。
挑戦だけはしてみた。