カフカ『巣穴』38
フランツ・カフカの短編小説『巣穴』を翻訳していくtheLetterの第38回です。
頭木弘樹
2026.07.15
サポートメンバー限定
●翻訳のつづきです
それで、わたしはまだ本物の出入口には入っていない。ありがたいことに。でも、近いうちに入らなければならない。だから絶望している。いっそ遠くに行って、以前のような殺伐とした生活に戻ろうかと、そんな決心をしそうになる。絶え間なく危険が迫ってきて、気の休まるときのない生活だった。ひとつひとつがどんな危険だったのか、よく認識できないほどに。でも、だからこそ、おびえずにすんだとも言える。今は、巣穴での生活の安全さに比べて、外での生活がいかに危険であるか、いちいちはっきり認識させられてしまうのだ。