カフカ『巣穴』20
フランツ・カフカの短編小説『巣穴』を翻訳していくtheLetterの第20回です。
頭木弘樹
2026.06.21
サポートメンバー限定
●翻訳のつづきです
もちろん、それでも時折、いや、もしかしたらいつだって、この欠陥がわたしを不安にさせないわけではない。ふだんの散歩のとき、このあたりを避けるとしたら、その主な理由は、見るのが不快だからだ。それでなくてもここの欠陥が気になってしかたないのに、あらためて目の当たりにしたくない。上の出入口のところにどうしようもない欠陥があるとしても、見ないですむあいだは、そうしていたいのだ。
出入口のほうへ向かうだけで、まだ通路や広場でへだてられていても、もうすでに何か大きな危険に足を踏み込んでいるような気になる。まるで身体をおおう毛が薄くなっていき、ついにむき出しの肉になった瞬間、敵の咆哮【ほうこう】に迎えられるような、そんな気がするときもある。