カフカ『巣穴』35

フランツ・カフカの短編小説『巣穴』を翻訳していくtheLetterの第35回です。
頭木弘樹 2026.07.09
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●翻訳のつづきです

 わたしは、隠れて見張っていた場所から離れた。野外で生活することにもあきあきしていた。もうここで学ぶべきことはない、今もないし、この先もない、という気がした。すべてに別れを告げ、巣穴の中に降りて行き、もう二度と外には出ず、何事も自然の流れにまかせ、無駄に見張るような、よけいなことはしないようにしようと思った。

 けれど、出入口付近で起きることを長いあいだ見てきたせいで、それがあたりまえになってしまっていて、いざとなると、巣穴の中に降りて行くのは、大変な苦痛だった。巣穴の中に降りて行くのは、それ自体がひどく目立つ行為だし、自分の背後で何が起きるか、さらに苔の覆いを再びかぶせた向こうで何が起きるか、わからないままになってしまうのだ。

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