カフカ『巣穴』17
フランツ・カフカの短編小説『巣穴』を翻訳していくtheLetterの第17回です。
頭木弘樹
2026.06.13
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●翻訳のつづきです
しかも、そのあたりは気楽に歩き回るわけにはいかないのだ。小さいながらも手のこんだジグザグ迷路がつくってあるからだ。
そここそ、わたしが巣穴づくりを始めた場所なのだ。当時はまだ、自分が計画しているような巣穴をいつか完成させられるという希望を持つことすら難しかった。だから、なかば遊びのつもりで、片隅からとりかかったのだ。最初の仕事だから楽しくて、わたしはすっかり夢中になった。この迷宮こそが、あらゆる建造物のなかで最高峰のように思われた。しかし今では、あまりにちまちました、巣穴全体に比べると見劣りのする素人細工のように思える。おそらく今の判断のほうが正しいだろう。頭で考えるとうっとりするのだが——当時のわたしは、見えない敵にむかって「ほうら、ここが入口だよ」とからかうように呼びかけ、入ってきたやつらが迷宮の中でことごとく息絶えていく様子を想像していたものだ——しかし現実には、あまりに壁の薄い、子どもだましな仕掛けにすぎなかった。本気で襲ってこられたり、死にもの狂いになったりされたら、ひとたまりもない。