カフカ『巣穴』03
フランツ・カフカの短編小説『巣穴』を翻訳していくtheLetterの第3回です。
頭木弘樹
2026.05.29
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●「わたし」
この小説は一人称で書かれている。
ドイツ語だと「ich」、英語なら「I」。
でも、日本語の場合、これをどう訳すかが問題になる。
「ぼく」「僕」「おれ」「俺」「わたし」「私」
他にも、「あたし」とか「あたい」とか「わし」とか「うち」とか「吾輩」とか、とにかくたくさんのバリエーションがある。
これのどれを選ぶかで、かなり印象が変わってくる。
筒井康隆なら「おれ」、村上春樹なら「僕」と、どの一人称を使うかが作家の特徴になっている場合もある。
私は、カフカは「ぼく」が似合っていると思っている。
だから、カフカの日記や手紙の中の言葉を紹介した『絶望名人カフカの人生論』(新潮文庫)では、一人称は「ぼく」にした。
しかし、カフカの小説の場合、主人公は男性(『巣穴』の場合ならオス)とは限らない。女性の可能性だってある。
だから、男性でも女性でもありうる「わたし」にした。
「私」でもいいのだが、なんとなく硬い感じがする。
『カフカ断片集』でも、同じ理由で「わたし」にした。
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