カフカ『巣穴』11

フランツ・カフカの短編小説『巣穴』を翻訳していくtheLetterの第11回です。
頭木弘樹 2026.06.06
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●改行について(前回のつづき)

 前回ご紹介したように、どれくらい改行するかというのは、同じ作家でも時代によって変化する。

 では、今の時代にカフカが生きていたら、どうしただろうか?

 と想像してみても、これはわからない。

 やはり改行が少なかったかもしれないし、増やしていたかもしれない。

 そこは勝手に推測するわけにはいかない。

 だから、本来は、カフカの改行のとおりに、翻訳でもまったく同じにすべきだと思う。

 しかし、それではとても読みにくい。

 前回の夏目漱石の『吾輩は猫である』、かなり読みにくかったと思う。

『吾輩は猫である』は朗読で聴くと、本当に楽しいのだが、読むのは骨だ。

 それはもうただただ改行が少ないという理由による(漢字の使い方もあるが)。

 今の読者はどうしたって、こういうのに慣れていない。

 改行が多いのに慣れている。

 前々回言ったように、カフカは本にするとき「すごく大きな活字」と「たっぷりした余白」を求めていた。

 それだと、改行がなくても、読みにくさはまったくない。

 ただ、これを翻訳でやることは難しい。

 じつは私はかつて、『逮捕+終り 「訴訟」より』(創樹社)という本で、それを実践したことがある。

 カフカが望むほどには活字を大きくできなかったのだが、それでも文芸批評家の人から「活字を大きくしてページ数をかせいでいる」と批判されてしまった。

 カフカの要望を知らなければ、当然、おかしな本に見えてしまうのだ。

 高科書店という出版社からも、吉田仙太郎の訳で、〈カフカが生前に希望した「可能な限り大きな活字・ゆったりした組版」を再現〉という趣旨で、大きな活字の本が3冊出たが(『観察』『田舎医者』『断食芸人』)、もう絶版で、入手困難だ。

 この3冊は1冊に合本するかたちで復刊されたが、活字は普通サイズになっていた。

 というわけで、翻訳をカフカが望むような大きな活字で出すことは難しい(私はまたいつか挑戦したいと思っているが)。

 となると、カフカの原文どおりの改行だと、ページが文字でいっぱいになってしまって、今の読者にはかなり読みにくい。

 その読みにくさは、カフカの原文にはないものだ。

 ごめんなさい!

 また長くなってきたので、つづきはまた次回に!(何回やるんだという感じですが……)

***

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